ゲリラ・ガーデニングから生まれた隠れ庭





Italy~Como


標識
英国の作家エミリー・ブロンテの本から引用した句の書かれた標識

スイスとの国境を山頂にした山に水源をもつガロヴォ川。
この川がコモ湖に流れ込む山の谷間に「ジャルディーノ・デレ・バレー(Giardino delle Valle)」と呼ばれる庭があります。
セレブの隠れ場として人気の五つ星ホテル、「ヴィラ・デステ(Villa d’Este) 」の庭と古い石塀を境に隣接した場所にありますが、この庭は鍵もかけられていない門をくぐれば誰でも自由に出入りすることができる市民の憩いの場所です。

ここを訪れるたびに、子供の頃に読んだイギリスの児童文学、『秘密の花園』の世界を思い浮かべます。
森林の茂りとその木陰、合間には季節の花が咲き乱れるとても気持ちのいい場所。
手入れが行き届いた古典的なイタリアン庭園とはかけ離れた、植物が持つ自然の力に任せて造られた庭園です。


ノンナ・プッパ
花の冠を頭につけたノンナ・プッパ

この庭が誕生した背景には現在88歳になる一人の老婦人の存在があります。
地元では〝 プッパおばあさん(ノンナ・プッパ)〟と親しみこめられたあだ名で知られるフラッティ婦人です。

彼女は〝エコ戦士(=積極的な環境保護を実践している活動家)〟という概念が普及する以前から、この地を生き返らせようとこの谷間で一人自然の庭造りに携わり、戦ってきました。
正に〝ゲリラ・ガーデニング”の発想からから生まれた場所です。

〝ゲリラ・ガーデニング〟とは、自分が所有していない土地、主に使われていない、荒れ果てた公共の土地に市民活動家の手でガーデニングを行う活動を言います。特にニューヨークやロンドンなどの進歩的な環境で普及している活動です。


コモ湖に流入する川沿い
コモ湖に流入する川沿い

ノンナがこの場所に目をつけた頃は、下水がすべてこの川に流出していたため、荒れ果てた状態でした。
その後、下水は整備されたものの、長い間人々に放置されていました。
若くして未亡人になったノンナは、一人で育て上げた子供達も成人したある時期、見放されたこの土地に新しい芽を咲かせる作業に心を癒され、自然と接することを〝セラピューティック・療養的”と感じたことにより、一人でゲリラ・ガーデニングに着手したそうです。

豊かな資源が見放されている状態がいつまでたっても改善されないのなら自分一人ででも自然を取り戻そうと、挑発精神ではなく自然な流れから始まった行いでした。

当初、援助を求めに行政機関の扉を叩いたものの、この土地に植物は育たないからと冷たく突き放されたそうです。


鍵もかかっていない門
鍵もかかっていない門

荒れ果てた土地の整備から始まり、雑草との戦い、自然のサイクルが破壊しつつあることによって発生する異常気象とその後遺症、犬を連れて訪れるモラルに欠けた人の残した始末の整理、行政機関との駆け引きなど、様々な角度から彼女に襲いかかってきた試練をのりこえ、30数年地道に歩んだ静かなゲリラ行為でした。
今はノンナの努力も実り、地元の植物愛好家の間では、ちょっと知られた存在になった憩いの場所になりました。

この30年のことを尋ねると「自然の植物たちと向き合いながらの共同作業でした」とノンナは応えてくれました。
ちなみに、市民の憩いの場所として承認された今でも財政難と戦うイタリアの行政機関から回ってくる金銭的援助は微々たるもの。


手作りの門
手作りの門

光線を少しでも感じると太陽を求めて広場に集まるのがイタリア人の習性。
そんな広場から徒歩5分程のところに新緑と川の水しぶきがひんやりとした快感を誘う場所にあります。
雑踏から逃れるオアシスとして、ここを知る人の隠れ場となっています。

高齢のノンナの悩みは自分が管理ができなくなった後、誰がこの庭を育て続けるのかという事。
先日手術のため入院した彼女は入院中、悪天候が続いたことにより庭の手入れがおくれていることばかり気になっていたそうです。

今年は雨が多く、春は例年の気温を下回る日が続いていました。
つかの間の天気に恵まれたある晴れた5月の日曜日の午後、「一番匂いのいいバラを選ぶコンクール」がこの庭で開催されました。
立ち寄ると、新緑の合間から差し込む光を浴びて輝くノンナの姿がありました。
精力的に活動するノンナを応援しようと彼女の仲間が作ってくれた野花の頭飾りを冠り、その飾りを嬉しそうに見せてくれました。
年齢の刻みが深く入った顔とか細い肉体の中に宿る彼女の力強さを感じ、勇気をもらいました。


緑の合間に咲く花
緑の合間に咲く花

一番匂いのいいバラのコンテスト
一番匂いのいいバラのコンテストを開催中

植物の合間をくねるように通る小道
植物の合間をくねるように通る小道

ノンナ
新緑の合間から差し込む光を浴びたノンナの姿

ライター紹介

ただの知代(ただのちよ)
イタリア在10年、大学生の長男筆頭に下の二人は男女双子の三人の母親です。
お料理も大好きですが、クッキングよりも食文化に興味もっているので、そんなことをテーマに書くのが好きです。

イタリア、コモ市。
コモ(Como、コーモとも)は、人口83,016人のイタリア共和国ロンバルディア州コモ県のコムーネの一つで、コモ県の県都である。
コモ湖を通じてスイスに接している。絹の産地として有名。


「”コモ”」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。
最終更新 2012年8月30日 (木) 12:50
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