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地元の賛同でオープンした新しい試みのカフェ
記録的な暑さとなった南イタリアの夏も、もう終わりの気配です。その一番の証拠に、夏は一日中”出張中”の我が家の2匹の猫も、家の中でうたた寝している 頻度が増えている気がします。マーケットで陳列される取り立てのボルチーニマシュルームやかぼちゃが並ぶと、暑いから食欲もなく苦労していた献立作りに、また気合いがもどります。
最近地元でちょっと変わった試みのカフェがオープンしました。ヨーロッパには、古くからホテルやレストラン等でプロとして働く職人を育てるホスピタリ ティー業務が根付いています。それが基本になっているからでしょうか、例えばカフェでコーヒーを作る人は”バリスタ”、ワイン選びの専門家は”ソムリエ” 等と、飲食業の専門性を象徴する肩書きも定着しています。イタリアではすでに高校に進学する段階で、リチェオ(普通高校)と専門技術を身につけるプロフェ ショナル学校と分かれますが、このカフェは地元のホスピタリティー専門学校生徒の実務訓練を援助する場所でもあります。
営利目的ではありますが、場所は地元自治体が所持する施設の敷地内にあり、善意事業を支援する財団もバックアップし、職業訓練の生徒や障害者に職務経験を与える場として地元の賛同を得てオープンされたカフェです。
カフェの装飾やデザイン、メニュー作りや食材選びと、オープニングに向けて全ての過程で生徒が携わったそうです。プロのマネージャーの監視の元、料理や飲み物の調理から、サービスにいたる営業面全てを生徒が実務訓練としてまかなっています。
エスプレッソ、カプチーノ、マキアートと、日本でもイタリアンカフェの普及によりすでに馴染み深いコーヒーから始まり、マロッキーノはエスプレッソとミルクの泡にカカオ、カフェコレットとはエスプレッソにリキュールのグラッパなど、一人前のバリスタのレパートリーは広がります。
さらに常連客の好みに応じて白砂糖か黒砂糖、シングルかダブルエスプレッソと、通勤や通学の途中に立ち寄り、忙しく済ませるイタリアの朝食時にテキパキとオーダーをこなすのには、熟練が必要です。まだ見習い中の生徒のサービスは決してスムーズではありませんが、一生懸命の姿勢が初々しいこのカフェ、どうしても応援したくなるものです。
イタリアの生活には人が交わる環境が残ってます。街角の人々が立ち寄るお気に入りの地元のカフェもそうですが、新聞や雑誌を売っている街角のキオスク、人々が散歩で集まる広場など、コミュニティーの中心となる場所には、自然と人が集まり、交流の場が生まれます。
マシーンを買えば家でも美味しくカフェスタイルのコーヒーも飲める時代に、あえて街角のカフェにでかけ、顔見知りのスタッフやお客さんと一言二言でも会話する、そんな生活習慣がまだ根強く残っていることは貴重なものです。
コーヒーショップのバイトの感覚で作られるコーヒーと、プロのバリスタを目指す若者のコーヒーの味に違いを感じられるようなカフェとして育ってほしい試みです。
ライター紹介
ただの知代(ただのちよ) イタリア在10年、大学生の長男筆頭に下の二人は男女双子の三人の母親です。 お料理も大好きですが、クッキングよりも食文化に興味もっているので、そんなことをテーマに書くのが好きです。