“The Floating Piers” ;湖に浮かぶクリストの芸術の埠頭





湖に近くづくと見えてくる水面に浮かぶ歩道。

湖に近くづくと見えてくる水面に浮かぶ歩道。

アルプスから生まれる水が源泉となり湖の多い北イタリアのロンバルディア地方。
観光地として有名なマジョーレ湖、ガルダ湖、コモ湖は耳馴染みと思いますが、あるコンセプチュアルアートのインスタレーションの誕生で今イゼオ湖が脚光を浴びています。

朝7:00はまだ人影もまばらです。

朝7:00はまだ人影もまばらです。

ブルガリア出身の芸術家クリスト。
1960年以降に次々と実現され、代表作となった「梱包」シリーズのインスタレーション作品で一躍注目を浴びました。
彼の作品は都会であろうと田園の中であろうと、その場を象徴するモニュメントや自然の風景をキャンバスにおきかえ、布や傘等作家のイマジネーションを実現させる媒体を加えることでその景観を変貌させ、巨大な芸術作品を作り上げるスケールの大きいコンセプチュアルアートです。
そんな創作活動の代表作となったベルリンのライヒスターク(帝国議会議事堂)を布で覆った作品を始め、自然や風景を巨大な布で梱包した作品が一番有名ですが、日本でも1991年にアンブレラ・プロジェクトの一環として茨城県の水田地帯に1340本の巨大な青い傘を並べ、同時に設置されたカリフォルニア州の黄色い傘の風景との連動芸術が大きな話題となりました。

遠くに浮かぶ埠頭を歩く参加者

遠くに浮かぶ埠頭を歩く参加者

クリストの作品に象徴されるのが人々を巻き込む共同作業。
今回イゼオ湖に設置された作品は220,000個のポリエチレン製キューブをつなぎ合わせて出来上がった埠頭ですが、出発地から沖の対岸の島へと続き、更にもう一つの島の周りを囲み、元にもどってくる水面歩道。
でもその埠頭の上を安心して歩く事を可能にするのにはエンジニア、土木技師、湖の底面に錘を沈めて定着させたダイバー等、様々な人の力と技術が一旦となり完成しますが、クリストのビジョンを現実化させるアートというよりも最先端のエンジニアリングが芸術と融合して出来上がった共同作品です。
更にその上に太陽の光線によって色が変わるオレンジの布がかぶさると、湖の水面、周りを囲む山脈、空、太陽、風と自然の要素も加わり、その日によって変わる芸術を肌でも視覚でも経験する参加型体験アートの誕生となるわけです。

囲いも手すりもありませんが安心してあるけました

囲いも手すりもありませんが安心してあるけました

クリストの作品が実現する上で一番大変なのが行政許可の所得だそうですが、今回も湖に浮かぶ埠頭を完成させるのに数多くの人の力を要したそうです。
実はこの構想、東京湾での設置も検討されたそうですが、許可の申請にてこずり、結局あきらめた後、イゼオ湖の可能性が浮上したそうです。
許可を得てからも数々の実験を重ね、開催期間の2週間と限られた期間だけとはいえ、その間は地元の人々も一体となり運営に協力します。
そんな「みんなの力」を強く感じる人々のアートは美術館で眺める体験とは多いに異なります。

ブレシアで同時開催されている展覧会ではプロジェクトのスケッチやプリエチリンのキューブも展示されてます

ブレシアで同時開催されている展覧会ではプロジェクトのスケッチやプリエチリンのキューブも展示されてます

幸い晴天に恵まれていたこともありますが、実際に埠頭を歩いて感じたのは、思ったより安定していること。
靴を脱いで水で濡れた布の感触を素足で体験している人、犬を連れて散歩風の家族、車椅子の老父もいましたが、囲いも手すりもないのにも関わらず湖の水面の若干の揺れを楽しむように誰もが安心している様子でした。

天気の状態だけではなく完成された埠頭を歩く人々の流れによりこの作品は常に表情が変わり、参加者が作品の一部になるわけです。
「水を歩く」という感覚を体験することにより、新たな感触を経験し、湖の真ん中から陸を見ることで視点を変えてみる。「埠頭の出発点となった町を湖に浮かぶモンテ・イゾラ島を結ぶことによって何百年と水の存在に隔たられたこの町の住民たちが初めて徒歩で交流する、それ自体も画期的な試み」、と一緒だった建築家の友人も話していました。

セルフィーで記念撮影する人々

セルフィーで記念撮影する人々

クリストは妻でフランス人芸術家のジャンヌ=クロードとパリで出会ってから、2009年にジャンヌ=クロードが他界するまで、常に共同で活動してきました。
今回イゼオ湖の埠頭設置と併せて近隣のブレシアの町で同時開催されている「クリストとジュンヌ=クロードの水のプロジェクト」と題された展覧会では、水の存在がテーマとなった湖、海、川のプロジェクトが中心となり紹介されています。
インスタレーションを実現する上での資金源はプロジェクトの構想図となるスケッチやコラージュの販売で調達されるそうですが、展示されている今までの様々なプロジェクトのイラストレーションを見ることにより、膨大なスケールの芸術的ビジョンを完成させる裏に隠された数多くのアイディアと試みの積み重ねがあることを実感させられました。
まさに根気と忍耐の成果です。

布に反射する人影もアート

布に反射する人影もアート

「湖に浮かぶ埠頭」が開催中の6月23日、英国民が欧州連合脱退の評決を下したことでヨーロッパに衝撃が走りました。
今までヨーロッパが一体になり立ち向かっていた経済危機や難民問題等、まだ未解決の課題が沢山残された上でのこの決断は大きな打撃に感じます。
人を巻き込むことにより人と人を結ぶ、力を合わせて困難に立ち向かう。そんな生きた芸術作品が訴えるテーマが余計に真実性を増し、プロジェクトの意図に強く共感する体験となりました。

ライター紹介
ただの知代(ただのちよ) イタリア在10年、大学生の長男筆頭に下の二人は男女双子の三人の母親です。 お料理も大好きですが、クッキングよりも食文化に興味もっているので、そんなことをテーマに書くのが好きです。

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